百合(ユリ)を食べてしまった猫が来院

ご存じの方も多いかと思いますが、植物の百合(ユリ)は中毒物質となります。

猫では特に注意が必要です。

ユリ科の植物(花、葉、茎、花粉、球根など)を誤って摂取した際、特に急性腎不全を引き起こします。
主な症状は、嘔吐、元気消失、食欲不振、流涎、震え、けいれんなどですが、重篤な場合は死に至ることもあります

そんな危険な物質である百合の「葉」を食べてしまった猫が来院されました。

猫の誤食で飼い主さんに聞くべきこと

いつものとおり、問診からスタートです。

実際に見たのかどうかの確認

今回は、いつもの誤食の時に聞く「食べたのを実際に見ましたか?」「食べたのは確実ですか?」という質問はやや重要度が落ちます。

百合(ユリ)については、「食べていなくても、顔を近づけただけでも危険」だからです。
百合(ユリ)の場合は、花粉でも中毒が起きますし、何なら、活けている水を舐めても中毒が起きます。
したがって、近づいていたという事実だけで、最悪の事態を想定しなければなりません。

今回の場合は、「葉っぱを半分ほど食べてしまった」のを目撃した、とのことでした。

既往歴の確認

これもいつものことですが、確認をしていきます。

循環器疾患や呼吸器疾患、てんかんなどの神経系疾患や、薬剤アレルギー、誤食歴などを簡単に聴取していきます。

幸いにして、誤食してしまってから時間は経っていませんでしたので、吐かせる処置を最優先で実施することになると予想されます。

百合(ユリ)中毒の危険性を考えるのであれば、多少の既往歴があろうとも、催吐処置が必須と予想されます。
そのため、既往歴の聴取や、現状評価も大事ではありますが、結果としてやるしかないというのが実情です。

とはいえ、予め知っているのと知らないのでは大きな違いがありますし、それに対する準備・対応にも差が出ます。
しっかりと確認し、実際の検査・処置へと移ります。

百合(ゆり)の誤食をした場合の検査

前回の誤食の記事は、シリコン製のおもちゃの誤食だったと思います。
シリコンは中毒物質ではないと言われているので、物理的な障害を考えるだけで十分でした。

中毒が懸念される物質の誤食の場合、物理的なものだけでなく、化学的・生物学的な障害を考える必要があります。

そのため、血液検査は推奨されます。
*今回は飼い主さんと協議の上、見送りましたが。

中毒物質を摂取した際の血液検査の必要性

百合(ゆり)の場合は摂取してから3時間~8時間くらい、あるいは12時間くらいで症状が出るなど、報告にばらつきがあります。

一般に、どんな中毒物質も、摂取直後に中毒症状が出ることは少なく、数時間してから出ることが多いです。
そのため、夜間救急動物病院に来院される多くは、無症状であることがよくあります。
むしろ、それが一般的と言えます。

しかし、中毒の場合は、数時間後~数日後にしっかりと症状が出ることが多いため、なるべく早い処置が必要となります。
何事も早期対処が大事ですね。

症状が出るころには、血液検査などの検査データでは異常が検出されることが多いのですが、ここで重要なことは、「摂取前は健康だったのか?」ということです。

10→100と、50→100、100→100の三つを比べてみたときに、数字が100になっているという結果は同じです。
しかし、解釈は変わってきます。
どう違うかは今回は割愛しますが、摂取前のデータとの比較が重要ということになります。

そのための、基礎データとして、血液検査が必要、あるいは有用となります。

誤食をした場合の事前検査としてのレントゲン検査

催吐処置を行う場合、これは必須です。

今回は葉っぱを半分食べてしまったということなので、おおよその回収すべきものの全容はわかっていますが、検査は致します。

胃の容積を把握、そして、他の異物や異常の確認をしたら、それで十分です。

猫の催吐処置

これもいつもの通り、留置針(ルート確保)を血管に設置し、催吐処置を実施します。

ここで注意すべきは、『猫の催吐による嘔吐成功率は低い』ということです。

経験上、そしてデータも示していますが、犬では80~90%くらいは催吐成功となります。
*嘔吐が起きることと、目的とする異物を回収できることは別です。

しかし、猫では『嘔吐する確率は20~50%程度』であるということです。
この催吐成功率は、経験上のものでもあり、データでもあります。
*色んなデータはありますが、数字のばらつきは大きく、使用する薬剤などでも大きく異なります。

猫は動物種としての特性で、吐きにくいというのがあります。
食道の平滑筋の占める割合が大きかったり、化学受容体の差異(猫の嘔吐中枢は主にαアドレナリン受容体を介して刺激される)と言われます。
さらには、猫は中毒を起こしやすく、安全に使用できる薬剤が限定されるというのもあるようです。

上記のように、猫では、なかなかに催吐が成功しません。
成功するよりも、失敗する確率のほうが高い場合が多いので、これは事前に必ず飼い主さんにご説明したうえでの処置となります。

催吐処置の結果と、その後の処置は・・・

結果、、、今回は無事に催吐成功!

にゃんこさんは無事に吐いてくれました。
嘔吐物に、しっかりと葉っぱが確認できました。

百合(ゆり)中毒を懸念した催吐後の治療

治療内容としては、迷った部分もあるのですが、吐き気止めと胃酸分泌抑制剤、水分補給としての点滴です。
迷った理由は、吐き気止めとなります。

少量の残渣が胃内に残っている可能性はあるため、なんなら数回嘔吐をしてくれたほうが残りの部分も回収できるかもしれません。
そのため、あえて吐き気止めを打たないという選択肢もあったのですが、迷った挙句投与することにしました。
比較的、葉っぱがきれいな形で出てきたため、齧ったりして細切れになり、破片が胃内に残ってしまった可能性は低いだろうと推測したためです。

水分補給は、百合(ゆり)中毒が起きた場合の腎臓へのケアも考えたうえでの実施となります。

百合(ゆり)中毒のご説明

百合(ゆり)中毒についてご説明をしました。

よくある勘違いなのですが、「吐かせてしまえば大丈夫」ではありません。

すでに吸収された分と、催吐処置で吐ききれなかった残渣によって、中毒が起きる可能性は十分にあります。

そのため、「中毒は起きる」という前提のもと、要観察をお伝えします。
起きる可能性がある症状などをお伝えし、翌日必ず主治医のもとを受診するようにお伝えしてお返しとなりました。

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執筆 K-VET